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【メディア掲載情報】工業技術社発行の「計装」2022年7月号に記事が掲載されました

  • 2022.07.04
「計装」2022年7月号

工業技術社発行の「計装」2022年7月号に、弊社システム営業部テクニカルセールス課 依田が寄稿しました無線応用ソリューションに関する記事「高速化する工場内の無線LAN環境」が掲載されました。

「適用領域が広がる無線応用機器/システム」を特集とした本号において、過酷な環境で高速無線LANネットワークを提供するMoxa社製『AWK-3252Aシリーズ*』をご紹介しています。

* AWK-3252Aシリーズは今秋発売予定

寄稿記事
「高速化する工場内の無線LAN環境」

アイ・ビー・エス・ジャパン株式会社
システム営業部テクニカルセールス課
依田 隆寛 (ヨダ タカヒロ)

1.はじめに

近年、様々な業界でAIやロボティクスの導入が進んでいる。業務改善や効率化といった理由から少子高齢化による労働力の減少や従業員の安全確保など、背景は異なるものの、目指すべきゴールは人と協働し安全で安定した業務遂行を達成することであろう。技術革新によりコンピューティング能力の大幅な進歩もこうした変革を支えている。機械学習やセンサ技術の向上により、エッジ側での演算処理が高精度に実行できるようになり自立制御も高度化しつつあるが、中央システムとの通信は連携や管制指示のために重要となる。
工場環境においても、ドローンや自動搬送機 (AGV)、ロボット制御の用途で無線通信を使った高速大容量通信のニーズが高い。また、スマート工場においては、レイアウト変更やケーブルの損耗、断線を防ぐ目的で無線化が進んでいる領域もある。
昨今では、無線LANと5G (ローカル5G含む) が比較されることが多いが、中小規模の閉域環境における汎用的な無線利用では、コストと構築難易度の両面において無線LANが優れる点は多い。
本稿では、過酷な環境で高速無線LANネットワークを提供するMoxa社製「AWK-3252Aシリーズ」について解説する。なお、本稿執筆時点では未発売の製品のため、仕様に関する記述等で実際の製品と一部異なる可能性があることをご了承いただきたい。

2.可視光カメラやLiDARセンサによる自律制御の拡大

スマート工場を語る上でセンサデータの活用は切り離せないものだが、測位や画像処理において用いられるセンサデータは、データ自体の容量および送信頻度が非常に高くなる。移動体通信や遠隔制御のために無線LANを用いる場合、こうしたデータの一部だけでもサーバとの通信に流そうとすると、半二重通信である無線LAN区間がボトルネックになってしまう。実運用では少量の通信で良い場合であっても、問題が発生した際に解析データ取得のために流そうとして、こうした課題に直面する場合も工場現場ではよくある話だ。
また、電波干渉や障害物などで電波が届きにくい工場環境においては2.4GHzの周波数帯が主に利用されてきたが、昨今の用途の多様化により、チャネル間干渉の少ない5GHz帯を活用するケースが増えている。5GHz帯を拡張し高速化した802.11acと、2.4GHz帯の802.11nを同時並行に活用することで、効率的なネットワーク利用が可能となる。
今や無線LANは工場内ネットワークの重要なインフラの一部となっている。多目的に共有する無線通信だからこそ、需要の拡大に対応ができるものを選んでおきたい。

3.MU-MIMOによるストリーム数の拡張

従来の802.11nで採用されていたSU-MIMO (SingleUser MIMO) では、送信と受信が1対1で行われる。無線通信は基本的に半二重通信で行われるため、1対1で行う通信は1台のアクセスポイントに対して同時に通信できるのは1台のクライアントまでということになる。ここでMIMOによる2ストリームを同時に送受信することで、100Mbps前後の実効速度を出すことができたわけだが、クライアントが複数接続した場合は1台ずつ順番に通信するため遅延が増えて速度も下がることとなる。
802.11ac Wave2で採用されたMU-MIMO:DL (MultiUser MIMO:ダウンロード) では、アクセスポイントから複数クライアントに対する同時送信数を増やすことで、実効速度を倍増させることができるようになった。(表1参照)

表1

表1:Wi-Fi規格の比較拡大 (クリックで拡大)

市販品の仕様によって同じ802.11acの製品間で表示速度が異なる場合は、MIMOのアンテナ本数と同時ストリーム数の違いによるものが主である。その場合、アクセスポイントと接続する予定のクライアント双方で搭載しているアンテナ数と同時ストリーム数を確認し、実際の最大理論値を確認しておくことをお勧めする。数字の大小だけで優劣を判断してしまうと、性能を活かしきれない機種選定を行ってしまう可能性もある。
逆にいうと、SU-MIMO (802.11n) のクライアントが主体のネットワークではMU-MIMOのアクセスポイントの性能を引き出せないことになるため、可能な限り同じタイミングでMU-MIMOで揃えておくことが望ましい。
Moxa社のAWK-3252Aシリーズでは、アクセスポイント/ブリッジ/クライアントの3つの役割を1機種に切り替えて設定することが可能なため、機種選定で戸惑うことがないだろう。(写真1)

写真1

写真1 AWK-3252Aシリーズの外観

4.ネットワークセキュリティは最新に

無線LANネットワークは接続場所を選ばないことが利点だ。その反面、昔から不正アクセスやデータ漏洩の脅威に対する明確な対策が求められてきた。Moxa社では国際標準化団体のIECが策定している汎用制御システム向けセキュリティ標準であるIEC62443に準拠した製品開発を行っており、機能面においても要件をクリアする製品を提供している。
また、システムセキュリティとしては、ネットワークに接続する際に認証サーバにアクセスするRADIUS認証が採用されるケースも増えてきた。システム全体でセキュリティ環境を求めるゼロトラストに対応するため、RADIUS認証を用いる802.1x対応の製品をお勧めしたい。

5.WPA3+802.11wによる接続プロセスの強化

WPA3は2018年にWi-Fiアライアンスがリリースした、無線LANセキュリティを強化したプロトコルである。コンピューティング技術の進歩により、辞書攻撃の試行速度も高まり、また暗号化技術自体の解読が進み弱点が指摘されていく。これまでのところWPA2が最も普及しているが、今後はWPA3による暗号設定が標準化してくであろう。
また、802.11wは無線LAN通信に使われる管理フレームを保護する仕組みで、管理フレームの改ざんを防ぐことができる。先述のRADIUS認証によるネットワークセキュリティを用いない小規模な無線LANシステムにおいては、侵入を受け付けないこうした強固な接続セキュリティを用いることが重要となる。

6.無線LANクライアント配下のアドレス管理をシンプルに

シンプルに自動搬送機やフォークリフトなどには、コンピュータやカメラ、センサなどの複数のネットワーク機器が搭載されていることが多い。工場内ネットワーク上では通信を行うIP機器すべてに一意のアドレスを割り当てる必要があるが、装置の数が増えるごとに内部機器のアドレスを含めて配置することが課題になりやすい。既存のアドレス配置では保有しているアドレス数を超えてしまうこともあるだろう。
AWK-3252Aシリーズは、クライアントルータ機能を搭載しており、無線インタフェース側とLANポート側のネットワーク (サブネット) を分離して、仮想IPに変換するNAT (Network Address Translation) 機能を利用することができる。この機能を用いることで、AWK3252A配下に接続されたネットワーク機器のIPアドレス体系を固定化し、AWK-3252Aの設定上で仮想IPに変換し、上位ネットワーク上のサーバと通信させることが可能となる。 (図1)
NATの種別としては、IPマスカレード (NAPT) や静的NAT (SNAT) をサポートしており、幅広い通信目的に対応することが可能だ。

図1

図1 NAT機能の適用例

7.厳しい稼働環境で安定した運用を続けるために

工場環境では、電源ラインやシールドから電磁ノイズが流れ込むことで、機器が故障することが多い。AGVやロボットなどは静電気による故障も生じやすい。そうした環境下で動作する電子部品には、すべてのインタフェースに対する電気的保護が必要となる。AWK3252Aシリーズでは、ESDに対する保護はレベル4 (接触8kV、空中15kV) をクリアしており、外的要因による故障を防いでいる。
さらに、運用中に生じる主な故障要因としてあげられる、ファームウェア更新時の失敗を防ぐため、デュアルイメージを採用した。動作中のファームウェアを直接更新してしまうことで、不整合が生じた際に起動不良となるリスクを排除することができる。 (図2)
このメカニズムにより、厳しい環境下で安定稼働が求められる製造現場においても、安心して最新バージョンが適用できるようになるだろう。

図2

図2 デュアルイメージ・ファームウェア

8.独自の高速ローミング技術で多数の国内実績

無線LANの課題のひとつに電波強度の変動があげられる。無線LAN通信では、電波の強度が高ければ高速な通信が可能だが、低くなるにつれて速度を落として通信を維持しようとする。そのため、接続した状態であってもデータが通りにくくなり、反応が遅くなったり、接続しているがデータの流れが止まってしまったりする事態に陥りやすくなる。アクセスポイント側で無線LANクライアントの電波受信感度をみて最適な接続先を切り替えてくれる技術 (主にコントローラ制御) もあるが、中小規模向けアクセスポイントの多くにはそうした機能がない。
そのため、Moxa社では無線LANクライアントに「Turbo Roaming」という機能を搭載している。Turbo Roamingは、無線LANクライアント側が周囲の接続候補となるアクセスポイントの電波強度を監視しており、接続条件が整い次第150ミリ秒以内に切替えを行うというもの。低速移動するクライアントであれば常に接続状態の良いアクセスポイントを選び接続してくれるため、安定した通信状態を維持することが可能だ。MoxaのTurbo Roamingはアクセスポイントのメーカを問わないため、日本国内でも高評価をいただいており、無線LANクライアントとして工場や倉庫での多数の採用実績がある。 (図3)
AWK-3252Aシリーズでは、2.4GHz帯と5GHz帯を同時にスキャンチャネルに設定することができるため、それぞれの周波数帯の特性に応じたカバレッジを活用することができ、これまで以上の安定環境を構築することも可能となる。

図3

図3 Turbo Roaming 動作概要

9.最後に

もの作りの現場でもリモートワークの試みは広がりをみせているが、そのためにシンプルに安定した通信環境を構築できることが重要となる。無線LANは5GやLTEと効果的に組み合わせることで、低コストで多くの価値を提供できる接続ソリューションとなる。そのなかでも安定性と安全性、長期供給性は重要な評価基準となるため、Moxa社ではハードウェアとソフトウェア両面でユーザのご期待に応えられる製品開発を日々続けている。
弊社アイ・ビー・エス・ジャパンは、20年以上Moxa社のプレミアパートナーとして国内の導入支援を重ねてきた代理店であり、ユーザの検討、評価段階から納入時の設定や検証立ち合いまで幅広いサービスをご提供している。マルチベンダ構成での構築にも対応可能のため、お気軽にご相談いただきたい。