OTセキュリティ / シリアルデバイスネットワーク

レガシーと革新の融合:OTの未来を支えるシリアル通信のセキュリティ強化 NEW
産業界が成長を続けるためには、「信頼性」が欠かせません。何十年にもわたり、シリアル通信はOT (Operational Technology:運用技術) における中核的な技術として、工場、電力網、交通インフラ全体で確実な接続性を支えてきました。しかし現在、産業分野はかつてない速度でイノベーションが進み、かつサイバー脅威がかつてないほど深刻化しています。このような状況の中で、企業はどうすれば、既存のシリアルインフラを安全かつ有効な形で維持していけるのでしょうか?
その答えは、レガシーシステムと最新テクノロジーをつなぎ、信頼性の高いシリアル通信に、現代的な技術と堅牢なセキュリティを融合させることにあります。長年産業界を支えてきた基本機能を維持しつつ、デジタル化によって高まる要求に応えるには。この技術情報では、シリアル通信インフラを近代化し、セキュリティを強化するためのステップバイステップのガイドをお届けします。
シリアル通信を取り巻く変化
シリアル通信は、現在も多くの産業現場における基盤技術です。そのシンプルさ、柔軟性、そしてコスト効率の高さにより、センサーやアクチュエーター、PLCやHMIなど、幅広い産業機器の接続に不可欠な存在となっています。たとえば、工場自動化においてはRS-485ネットワークが多くの機器を工場全体でつなぎ、電力分野では遠隔端末装置 (RTU) の監視・制御にシリアル通信が活用されています。
一方で、急速な技術進化の時代において、この重要なインフラの維持・統合・保護には、これまでにない課題が伴います。IIoT (Industrial IoT) やIndustry 4.0の登場により、シリアル通信はEthernetや無線、クラウドなどの新技術との共存が求められるようになりました。この “技術の融合” は、効率化やデータ活用の可能性を広げる一方で、互換性やセキュリティといった新たな課題も生み出します。
いま、多くの現場で次のような疑問が投げかけられています:
- サプライチェーンの課題や部品の老朽化を前に、必要な機器の長期供給をどう確保するか?
- レガシーシステムと最新技術との互換性をどう保つか?
- 高度化するサイバー攻撃から、シリアル通信ネットワークをどう守るか?
安全なシリアル通信を実現するための3つのポイント
OTの未来を見据え、シリアル通信を活用していくには、以下の3つの戦略的アプローチが重要です。
1.長期的な運用の信頼性を確保する
システムの信頼性を維持し、突発的な停止やコストの増大を避けるためには、既存のシリアルインフラに対する長期的なサポート体制が不可欠です。単なる部品の確保や修理対応だけでなく、ライフサイクル全体を見据えた能動的な管理が求められます。
たとえば、たった1つの部品が手に入らないだけでも、将来的にはシステム全体の更新や高額な対策が必要になる可能性があります。
そのため、以下のような取り組みを行うベンダーの選定が鍵となります:
- モダンで柔軟性の高いプラットフォームをベースにした製品設計:これにより、基盤となる技術が急速に陳腐化するリスクが低減されます。
- 長寿命で安定供給可能な部品の提供:信頼性の高いサプライチェーンと長い製品寿命を有するコンポーネントを提供するベンダーを優先してください。
- セキュリティ対応や新機能追加のための定期的なファームウェア更新:定期的なファームウェアの更新により、セキュリティの強化、進化する標準規格への対応、新機能の追加が実現します。
- 製品のEOL (販売終了) 計画や移行方針の明確化:ベンダーは、製品ライフサイクル計画 (エンドオブライフ (EOL) スケジュールを含む) と移行戦略を明確に開示する必要があります。
- 部品供給の可視化と、代替策の事前提示:コンポーネントの可用性を継続的に監視し、陳腐化のリスクを早期に特定し、顧客に事前に緩和策を通知します。
- 代替製品・ソリューションの円滑な移行支援:製品やコンポーネントが利用できなくなった場合、ベンダーは代替ソリューションへのスムーズな移行を提供する必要があります。
技術革新の激しい半導体業界において、こうした取り組みを積極的に行うパートナーを選ぶことは、シリアル通信インフラの寿命を最大限に延ばし、リスクを最小限に抑えるうえで極めて重要です。
2.近代化と相互運用性の実現
常に変化する産業の現場において、シリアル通信も進化が求められます。従来のModbus RTUなどのシリアルプロトコルに加え、Modbus TCP/IP、PROFINET、EtherCATといったEthernetベースのプロトコルとの共存が必要です。
そのため、柔軟な設定が可能なシリアルデバイスサーバーやプロトコルゲートウェイを導入し、クラウドアプリケーションとのセキュアな連携を実現しましょう。また、環境配慮型素材や省電力設計、製品寿命の延長といったESG (環境・社会・ガバナンス) 観点も意識することで、サステナビリティにも貢献できます。デジタル変革とデータ活用によって、既存のシリアル資産の価値をさらに高めることが可能になります。
3.サイバーセキュリティの強化
産業システムに対するサイバー攻撃はますます巧妙化・高度化しています。
その脅威はマルウェアから標的型攻撃まで多岐にわたり、業務の停止、情報漏えい、さらには物理的被害にまで発展するリスクがあります。
そのため、以下のような具体的なセキュリティ機能を備えた製品の導入が求められます:
- デバイスレベルのセキュリティとイベントログ:古いセキュリティが脆弱なシリアルデバイスとは対照的に、現代のソリューションは詳細なイベントログを使用して、不正アクセス、再起動、設定変更、その他の不審な活動を監視します。これにより、シリアルインフラストラクチャを標的とした潜在的な脅威に対する重要な可視性が得られます。
- 強固な認証機能:認証機能が不足していた従来のシステムとは異なり、現代のコンバーターはネットワークのエッジ部分でも不正アクセスを防止するため、強固なパスワードとユーザー認証を必須としています。
- データ暗号化 (TLS/SSL) :盗聴から保護し、データ機密性を確保するため、および Cybersecurity and Infrastructure Security Agency (CISA) のガイドラインなどの要件を満たすため、シリアルデバイスから送信されるデータをTLS/SSLなどのプロトコルで暗号化します。
- ロールベースのアクセス制御:ユーザーの役割に基づいてユーザーアクションを制限します。例えば、オペレーターに読み取り専用アクセスを制限し、管理者にはフルコントロールを付与することで、資格情報の漏洩リスクを軽減します。これは、アクセス制御が不足していた従来のシステムからの重大な変更です。
- セキュアなファームウェア更新:脆弱性を修正するための定期的なセキュアなファームウェア更新は不可欠です。ソリューションがセキュアで認証されたファームウェア更新のメカニズムを提供し、最新の脅威から保護し、IEC 62443などの規格の継続的な脆弱性管理要件を満たすことを確認してください。
- ITセキュリティとの連携:現代のOTセキュリティは、RADIUSやLDAPなどの既存のITセキュリティシステムとの統合を必要とすることが多いです。
これらは、IEC 62443-4-2などの国際標準にも準拠すべき、もはや“オプションではない”必須の要素です。
【導入事例】重要インフラにおけるセキュリティ強化
ここでは、ある天然ガスパイプライン運営会社が、監視システムの近代化を任されたケースをご紹介します。
同社は、進化するサイバー脅威に対応し、資産所有者に包括的なサイバーセキュリティ管理システムの導入を義務付けるIEC 62443-2-1の要件を満たす必要がありました。この取り組みの中核となったのが、ガスアクチュエーターや流量計などのレガシーなシリアルデバイスを、産業用イーサネットネットワークに統合することです。
この統合には、IEC 62443-3-3で定義されるシステム全体のセキュリティ要件を満たすとともに、重要インフラに求められる適切なセキュリティレベル (SL) を達成することが求められました。そのため、現場レベルで堅牢なセキュリティを確保できるセキュアなシリアルデバイスサーバーの導入が不可欠となり、同社はIEC 62443-4-2 SL2の認証を取得したMoxaのNPort 6650セキュアターミナルサーバーを採用しました。
このデバイスは以下のような多層的なセキュリティ機能を提供します:
- 中央認証システムとの統合により、ネットワーク全体でのID管理を簡素化
- セキュアオペレーションモードにより、シリアルからイーサネットへの通信を暗号化
- 構成チェックサム検証により、不正な設定変更を検知
- 継続的な脆弱性管理とセキュリティアップデートの提供による長期的な保護
これらにより、同社はシリアル通信インフラのセキュリティレベルを大幅に強化することができました。
とはいえ、脅威の状況は常に進化しています。同社では今後も、インシデントログの強化、ハードウェアレベルでのルート・オブ・トラストの導入、そして「セキュア・バイ・デザイン」のエッジ接続ソリューションなどを含む、継続的なセキュリティ対策の強化が必要であると認識しています。
Moxaのソリューションを採用したことで、同社はIEC 62443-3-3に基づく目標セキュリティレベルの達成と、IEC 62443-2-1への準拠という重要なステップを踏み出すことができました。さらに、既存のシリアルインフラの信頼性を維持しつつ、将来のセキュリティ課題にも備える体制を構築しています。
OTの未来に向けて
急速に進化する産業分野において、レガシーとイノベーションのバランスはますます重要になっています。長期的な信頼性の確保、近代化と相互運用性の実現、そして堅牢なセキュリティの徹底。この3つの柱を軸に、これからのOTネットワークにふさわしいシリアル通信インフラを構築しましょう。
詳しくは、こちらのホワイトペーパーをご覧ください。今後の産業通信の課題と解決策を、さらに詳しく解説しています。
ホワイトペーパー:産業用ネットワークにおけるシリアル接続の新標準