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製品・技術情報

RS-422/485について

  • 2009.12.10

アプリケーションノート / 第4章 RS-422およびRS-485システムの過渡電流保護

過渡電流(トランジェント)からRS-422 または RS-485システムを保護するための最初のステップは、防ごうとしているエネルギーの性質を理解することにあります。過渡電流エネルギーは、いろいろな根源、典型的な環境状況で、または大きなインダクティブな負荷を切り替えることで誘発されることに起因します。

サージは、どのようなものか
サージの詳細説明

過渡電流は、必ずしも産業用の細目と同じ訳ではありませんが、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)およびIEC(International Electrotechnical Commission)の両方で、サージに強い電気的、電子的な機器の評価に使用する過渡電流モデルを開発してきました。これらのモデルは、システムの損傷を防ぐ必要のあるエネルギーのタイプに踏み込んだ内容を提供しています。

IEC 1000-4-5: 1995 "サージ防止試験" および IEEE C62.41-1991 "低電圧AC電源回路のサージ電圧に関してIEEE が推奨する方法" は、オープン回路での電圧立ち上がりが、1.2µsの時間で50µsの消滅時間を持つ"1.2/50µs ~ 8/20µsの複合波形" サージを定義しています。記載のある電流波形は、ショートに対して8μsの立ち上がり時間で20μsの消滅時間を持っています。ある環境の元では20kVの高電圧が適用されますが、正と負の両方の極性において1~6kVのオープンな電圧レベルが、一般的に使用されます。(図4.1)と(図4.2)は、複合波形の特性を示しています。更にIEEE C62.41では、100 kHzの"リンギング"試験を説明しています。リンギング波形は、0.5μsの立ち上がり時間と、(図4.3)に示されるように12Ωのソースインピーダンスを持ち100kHzの減衰発振を持ちます。100kHzのリンギング波形の通常の振幅は、1~6kVの範囲です。

(図4.1)複合波の電圧波形
(図4.2)複合波の電流波形
(図4.3)100 kHz のリンギング波
コモンモードとディファレンシャルモード

システムを脅かすようなサージのタイプを識別する事は、過渡電流防止のための適切なレベルとその方法を選ぶ為の重要な要素です。データ転送ケーブルの中の導体のそれぞれが、同じ物理的な空間を通って伝わりますが、環境に起因する過渡電流または、"コモンモード"(これは全てのデータ上、またはデータケーブル内のグランド導体上に現れる)電流の切り替えを予想する事は理にかなっています。設置によっては、考慮すべき不要なエネルギーの別の根源が存在する可能性があります。データ通信ケーブルの近くを通る高電圧のケーブルがあれば、絶縁不良や設置者による不注意な接触により、異常な状況発生の可能性があります。このタイプのサージは、データ機器に対して"ディファレンシャル"サージを示しながら、データ通信ケーブル内の導体の何本かを接触させる可能性があります。このタイプのサージに関連する電圧と電流は、ANSIやIECによってモデル化されているサージのタイプよりもかなり低くなりますが、これらはそれ自身特別に破壊的な性質を持っています。数ミリセカンド以内に消失するにもかかわらず、データ通信ネットワーク上でしっかりとしたままの状態で存在します。

グランドはグランドではない

過渡電流エネルギーが、性質上高い周波数になり得ることを実感することにより、ある種の混乱を引き起こす事に気づかされます。この高さの周波数では、2点間の経路にインダクタンスがあるために2点間で低インピーダンスとなる電気的な接続を実現するのは難しくなります。グランドを取っているシステム間で経路が、何フィートのケーブルかまたは何千フィートのアースであるかによって、過渡電流が発生している間は、異なるグランド間で何百ボルトまたは何千ボルトの電圧になる可能性があります。配線により接続されている2点が、同じ電圧であると想定する事が出来なくなります。システムデザイナーにとって、これは RS-422/485が、5Vのディファレンシャルシグナリングを使用しているにもかかわらず、そのリモートノードのローカルグランドに関して、リモートノードは、5V信号を何百または何千ボルトの過渡電流に乗っていると見ることを意味します。一般的に"信号グランド"と呼ばれるものを一つの"信号の基準"として言及する事で、直感的で理解し易くなります。

グランド間にこれらの大きなポテンシャルの違いが存在する事を知った上で、我々はどのようにシステムノードを接続しましょうか。保護をうまく行う最初のステップは、リターンをサーチしながらサージ電流に対してデバイスを経由する経路を排除して、システムの中の各々のデバイスが、ただ一つのグランドに関係している事を確定する事です。このような単純なグランドの状態を作り出すのに2つのアプローチ法があります。最初のアプローチは、ホストデバイスのグランドからデータグランドを分離する事で、これは(図4.4)に示される様に通常トランス、または光アイソレーターを使用して行われます。二番目のアプローチは、(図4.5)に示す様に低いインピーダンス接続を使用してデバイス上で一緒に(通常電源のグランドとデータ通信のグランド)グランドの各々を結ぶ事です。これらの2つの技術は、過渡電流保護のための2つの基本的な方法です。

(図4.4)分離されたRS-485デバイス

(図4.5)シャーシグランドに信号グランドを接続したRS-485デバイス

アイソレーションを用いる過渡電流の保護
アイソレーションの原理

過渡電流保護に対する最も一般的なアプローチは、ホストデバイス回路からデータポートを直流的に分離する事です。この方法は、固定されたグランドから信号との関連性を分離します。光アイソレーター、トランス、光ファイバーは、ホストデバイスからI/O回路を分離するためにデータ通信ネットワークで一般的に使用される各種の方式です。RS-422 や RS-485のアプリケーションでは、光アイソレーターが最も一般的です。光アイソレーターは、電気的な連続性をなくして、電気的な信号を光に、または逆に変換する、一つにまとまった回路です。分離されたポートを使用することで、全ての分離された回路の構成部分が、データ通信の崩壊無しに過渡電流のレベルに浮き上がります。回路構成部分のフローティングレベルがアイソレーター破壊の使用限度(通常1000~2500ボルト)を超えない限り、ポートは、損傷を受けることはありません。このタイプの保護は、過剰なエネルギーを吸収したり、分流する事はしませんので、過渡電流が持続する長さに影響されることはありません。連続的な電圧の大きな変化も、分離されたデバイスに害を与えることはありません。アイソレーターはコモンモードの過渡電流上で動作しますが、例えばデータ通信回路と電源回路間のショートによる等、データ通信ケーブルの各導体間での大きな電位差に対しては保護出来ない事に注意する必要があります。

アイソレーションデバイス

光アイソレーションは、色々な方法で組み込むことが可能です。もしRS-232C をRS-422または RS-485に変換する場合には、光によるアイソレーション変換が可能です。光アイソレーション付のPCIバスシリアルカードなどは、PCシステムの既存ポートの置き換えが可能です。既存のRS-232C、RS-422 または RS-485 ポートを使用しているシステムに対しては、光アイソレーション・リピーターのインストールが可能です。

【デバイスの例】
分流(シャント)を使用する過渡電流保護
分流の原理

ホストデバイス側で一つのコモングランドを作ることにより、電圧の基準にサージ抑圧デバイスを関連づけるのと同じようにサージエネルギーを迂回する安全な場所を備える事が出来ます。害のある電流がデータポートに届く前にこれらの電流をグランドに分流するのは、TVS(Transient Voltage Surge:商標名Tranzorbでしばしば引き合いに出される)、MOV(Metal Oxide Varistor:金属酸化物バリスタ)、またはガス放電器(Gas discharge tubes)の様な装置(素子)の役割です。これら全ての装置は、設定された電圧でクランプする様に動作し、クランプ電圧を一度超えると装置は、端末間で低インピーダンスの接続になります。 このタイプの装置は、非常に大きなエネルギーを分流しますので、長い時間、または連続的な過渡電流に耐える事は出来ません。電流分流装置は、ほとんどの場合にそれぞれのデータラインからローカルのアースグランドまでの間に設置され、上記のシステム上で可能な限り通常の通信レベルに近い電圧で電流を流し始めるように選ぶ必要があります。RS-422 と RS-485にとって、選択される定格電圧は、通常6~8ボルトです。また通常これらの装置は、データラインにキャパシタンス負荷も加えます。これは、システムを設計する時に考える必要があり、追加された負荷の補整の為にトータルのラインの長さを減ずることにより補整を行う事が出来ます。通常数百フィートが適当です。

これらのタイプの製品を正しく使用する為には、可能な限り保護されるべきポートにインストールする必要があり、ユーザは、プロテクトされるユニットのローカルのアースグランドへの接続インピーダンスを極力低くする必要があります。このグランド接続は、分流デバイスの動作を適切にするためには非常に重要です。グラウンド接続は、出来る限り太い線で行う必要がありますし、可能な限り短く保つ必要があります。もしケーブルが1m以上の場合、効率を上げるためには、保護デバイス用にグランドの目的に向く銅線または撚り線を使用すべきです。過渡電流の高周波である性質に加えて、極端に大きな電流が存在し得ます。ANSIとIECの仕様において、複合波試験の方法では、通常数百アンペアの結果が得られています。

信号グランドの接続

分流タイプの保護を採用した場合それぞれのノードでは、ローカルのグランド接続が要求されますので、リモートグランドを一緒に接続する事を考える必要があります。過渡電流が流れている間、リモートグランド間で高い電圧が発生する可能性があります。グランド同士を接続する線のインピーダンスだけが、この電圧が原因となる電流を押さえる事が出来ます。RS-422 と RS-485両仕様では、グランド電流を制限するためにグランドに対してシリアルの経路に100オームの抵抗を入れるように薦めています。(図4.6)は、この説明の中で推奨されるグランド接続を示します。

(図4.6)100オームの抵抗を使用した2つのノード間での信号グランド接続

分流装置

分流装置には、2つのタイプがあります。最も安価なタイプは、一階層のものでこれは、通常それぞれのラインに一つのTVSデバイスで構成します。三段階のデバイスの構成も可能です。三段階デバイスの最初は、ガス放電器で、これは非常に大きい電流を処理しますが、高いスレッシュホール電圧を持ち、固体素子回路を保護するには効き目が緩慢すぎます。第二段階は、電流を制限する小さなシリアルインピーダンスで、最初と第三段階の間の電圧ドロップを促します。最終段階は、TVSデバイスで個体素子回路を保護するのに十分なスピードを持ち、データ通信回路に対して安全なレベルに電圧を下げる効果をもたらします。

アイソレーションと分流の複合方法

両方の保護方法をインストールすることで、システムに対し最高の信頼性を提供することが出来ます。(図4.7)と4.8は、この保護レベルを組み込む2つの方法を示します。

(図4.7)アースグランドへの分流保護を用いた分離ノード

(図4.8)グランド無しの分流保護を用いた分離ポート

(図4.7)に示す方法は、分離する事でアースグランド接続時に電圧ドロップから回路を保護するケースです。分流デバイスは、ケーブル上の色々な種類のサージ電圧を扱うと同時に、サージがアイソレーション素子のブレークダウン電圧を超えないように防ぎます。(図4.8)は、アースグランド接続を行う方法が無いケースに対して推奨される方法を示します。ここでの分流デバイスの機能は、種々のサージからポートを保護することであり、各種のサージは、分流デバイスにより導体間でバランスが取られ、コモンモードに変換されます。アイソレーション素子は、コモンモードの過渡電流の残り分からの保護を行います。

フォールト状態に対する特別な考慮

電源線に対してショートにさらされる可能性のあるデータシステムは、特別な保護の手段が必要となります。この場合には、(図4.9)に示す様に、分流タイプの抑制に加えてフューズタイプのデバイスの追加が推奨されます。ショートが発生すると、分流抑制は導通を始めますが、分流それ自体は、このタイプのサージのはっきりした状態の電流に耐える事が出来ません。小さな値のフューズが使用されるべきで、このフューズは、分流デバイスが破壊する前にオープンになります。通常125mAの値のフューズが使用されます。

(図4.9)フューズを使用したポートの保護

システムに合った正しい保護法の選び方

システムにとってどのタイプまたどのレベルのアイソレーションが正しいかを予測するのは困難ですが、しっかりと理解をした上で電気的な環境、物理的な状況、システムダウン時の損失コスト、修理コストをベースにした推測を行う必要があります。 ビル間、事務所と工場のフロア、または長距離をカバーするシステムのような2種類の電源間で接続されるシステムは、それなりのレベルの過渡電流の保護が必要となります。表4.1は、過渡電流保護技術の比較です。

(表4.1)保護技術の比較

光によるアイソレーション 分流法
グランドの基準は不要 低インピーダンスのグランド接続が必要
データラインへの負荷がない データラインに容量性付加が加わる
より複雑 能動素子を使用しないので比較的単純
コモンモードの過渡電流に効果的 コモンモードとディファレンシャルモードの両方の過渡電流に効果的
インストールの品質に依存しない ユーザによっては不適切にインストールされる可能性がある
外部電源が必要 電源不要
長い時間または連続的な過渡電流にも影響を受けない 長い時間の過渡電流による破損の可能性がある